生活者に対して、企業がブランディングを行うのにふさわしい場所はどこでしょうか? 今や生活者は、スマホアプリなどのプロダクトやサービスを通じて、毎日企業と接触し続ける時代。つまり、毎日触れるプロダクトやサービスの「体験」そのものが、企業にとって重要なブランディングの場になります。 本稿ではブランディングの場がどのように変遷しているのか、そしてプロダクトにブランディングを“埋め込む”ためのスキルについて、さまざまな企業のビジネスを支援しているエクスペリエンスデザイナー兼クリエーティブテクノロジストのまきしまがご紹介します。
スマホを介して、企業と生活者は毎日コミュニケーションしている
まずは、「ブランディングの場」が時代とともに少しずつ変わってきていることを確認してみましょう。以下の図をご覧ください。
昔はみんなが見ているテレビでブランドCMを流すだけでも、世の中に企業のブランドイメージを浸透させることができました。
次に、テクノロジーが進化すると生活者同士の情報交換インフラが整ったウェブ・SNSの時代になり、より真実味のあるユーザーの生の声が、消費行動の決め手になっていきます。
企業が語る言葉は、実際に商品を購入したユーザーが語る言葉によって上書きされ、生活者が感じたブランドイメージが生活者同士で共有されていくようになったのです。当然、企業もこの動きを敏感に察知し、ウェブ動画やSNSでのブランディングが積極的に試みられるようになっていきます。
そしてスマートフォンの普及で誰もが簡単に情報発信できるようになり、情報爆発が加速した2010年以降は、スマホを介した体験にフォーカスが向けられるようになりました。
こうして、より満足度が高く使い勝手のいいサービスが、暮らしのパートナーとして選ばれる時代になりました。気づけばアプリという形で、企業のプロダクトがスマホにインストールされている人も多いでしょう。
今や私たちは、毎日のように企業、ブランドと手のひらで接しているのです。本稿でお伝えしたいのは、この「プロダクト」を介したブランディングです。
アプリ上で「ブランディング」が形成されている!?
Amazon、LINE、Twitter、楽天市場、TikTok、YouTube、Discord、Instagram、Uber Eats、漫画アプリ、ニュースアプリなど。
もはや私たちの日常生活においては、「企業の提供するサービス」そのものに接触することこそが、質・量ともに最も高くなっているといえます。
さらに、従来「モノを売る」というビジネスを展開していた企業においても、アプリなどを介してサービス(コト)を体験させ、長期的なコミュニケーションの中で収益をあげる、そんなビジネスモデルのシフトが多くの企業で起こっています。
このような状況下では、「自分が毎日サービスに触れて感じている印象」こそが、生活者にとって真実となります。
もちろん、ブランディングの場が完全にスマホ上に置き換わったわけではありません。マスメディアにはマスメディアの、SNSにはSNSの強みがあります。
例えば15秒のCM枠では、本質を突いた端的な言葉と、それに合わせたキャッチーなビジュアルで訴求するのがいいでしょう。
あるいは、生活者同士がコミュニケーションするSNSでは、生活者が思わずコメントしたり、共有したくなるストーリーを添えるのがいいでしょう。
そしてスマホ画面と生活者が1対1で向き合う世界では、プロダクトの機能や体験自体がブランドの理念を体現するものであり、なおかつ生活者にとってイイモノである必要があります。
自走するブランディング、そのヒントは夢の国にある
ここまでの話を整理すると、
・スマホ時代は、プロダクト(アプリやサービス)という形で企業と生活者が毎日のように対話をしている。
・ブランドのビジョンや、サービスのミッション、企業が伝えたい思いが、サービス体験の中で感じられるようになっていることが理想。
いわば、プロダクトによる“自走するブランディング”が必要なのです。
突然ですが、ディズニーランドは言わずと知れた夢の国です。有名な話ですが、ディズニーランドは園内から周りのビルが見えないように作られています。また、ゴミを完全に排除してカラスが園内に来ないように徹底しています。
ごく一部の例ですが、このようにして「現実に引き戻される瞬間」を徹底的に排除することで、ディズニーランドは「夢の国」を実現しているのです。ゲストは、園内にいる限り夢から醒めることはないでしょう。
ここでディズニーランドを一つの「プロダクト」と捉えるとするならば、プロダクト自体の設計が、「夢の国」を体現するものになっていると言えます。
つまり、プロダクトがブランドの理念やビジョンを体現できていれば、それを体験してくれる人がいる限り、ずっと無料で、自動で、ブランディング広告を打ち続けているのと等しい効果があるのです。
スマホアプリやウェブサービスでも、ディズニーランドと同じように考えることはできないでしょうか?
日々スマホを通じて接するアプリ/ウェブサービスとの具体例として、Twitterを考えてみましょう。Twitterは「いまどうしてる?」という言葉を掲げているように、今起こっていることを、世界に一瞬で共有できるサービスです。Twitterというプロダクトはこの理念を体現するための設計がされています。
例えば「140文字」の文字数制限は、投稿やタイムラインの閲覧にスピード感をもたらします。それまで台頭していたブログとは異なり、目まぐるしく流れていく「タイムライン」は、古い情報が目に入らない設計になっています。
その結果、ユーザーにとってTwitterはリアルタイム性の高い情報共有サービスとして知らず知らずのうちに認識され、他の情報共有サービスとは違う唯一無二のSNSブランドが築き上げられたのです。
たまたまではありません。自分たちのブランドの価値を理解して、意図して機能の制限や必要のない情報を捨てるデザインを、サービス設計に組み込んだのです。
スマホ時代、サービス時代である今、「自走するブランディング」を意識したプロダクト開発が、いかに重要であるかがよく分かると思います。
「こんなビジョンでこんなプロダクトを作るなら、こういうUXにすればブランドを感じることができる」という、ブランドデザインの観点がプロダクト開発に必要なのです。
ビジネス開発、サービス開発の落とし穴とは?
しかし多くの場合、ブランドの持つビジョンや世界観と、実際のスマホアプリといったプロダクトには乖離(かいり)があります。
ブランドの世界観を体現するために、一つ一つの機能やデザインがどうあるべきか?ブランドのビジョンが伝わる正しいデザインのカタチはどんなものか?といった部分に配慮が行き届いていません。
なぜなら、企業が新しいサービスを開発する際は、どうしてもビジネス視点に寄りすぎてしまうから。そして、とにかく機能を実装することに注力してしまいがちだからです。本当はもっと、生活者がそのプロダクトを触り、使うときに、どんなブランド体験をさせたいのかを考え、注意深く設計する必要があるのです。
ブランドのビジョンを描く人と、プロダクトを開発する人が別々というところも落とし穴になっています。開発するスタッフがビジネスや機能にのみフォーカスしてしまい、ブランドの価値が実際のプロダクトに反映されていない、といったことが起こっています。
「自走するブランディング」をプロダクトに埋め込むために必要なのは、ブランドデザインの専門家です。それも、ビジネス開発やサービス開発の初期段階からチームに入り、伴走する必要があります。
しかし、ブランドデザインとは具体的にはどういったスキルなのでしょうか?
メディアは変われど、人の本質は変わらない!
ここまでお話ししてきた通り、企業と生活者が常につながっている時代には、「日常的に接触するプロダクト」という顧客接点でもブランディングをしていく必要があります。
とはいえ、ブランディングにおける考え方が根本的に変わるわけではありません。受け手である人間の本質は変わらないからです。
人間は、アナログの場であろうがSNS上であろうが、褒めてもらえればうれしいし、努力が実れば達成感があるし、人の温かさに触れたら感動する、不快を感じると怒る。そうした「人のココロ」が動くメカニズムは、何千年も変わらないままです。
ということは、テレビCMやSNSなどで培われてきたブランディングスキルは、プロダクト開発にも通用するということでもあります。「ブランディングの本質」を、これからはプロダクト開発にも適用していく必要があるのです。
「自走するブランディング」のためには、ビジネスの企画・開発の段階からブランドデザインのプロであるクリエイティブメンバーを入れて、プロダクトやそれがもたらす体験がブランドを形成できるように体験設計・機能設計をする必要があります。
ブランド・ステートメントやミッション・ビジョンの策定から、例えばこんなビジョンでこんなサービスを作るとしたら、こういうUXにするべきだよね、という理想的な体験の空想まで。
テレビの向こうにいる人の心を動かすのか、スマホの向こうにいる人の心を動かすのか。使うメディアは違えど、人間の本質が変わらないからこそ、「人の心を動かすブランディングスキル」がプロダクト開発の現場に生きてくるのです。
プロダクト開発にブランディング視点が入ると、ビジネスが全く変わる!
心を動かすブランディングは、ビジネス開発のあらゆる場面でワークします。例えば、ブランドとしての顔つきやビジョンを魅力的かつ明確にすることで、
・すべてのステークホルダーの目線がそろう。
・投資家や上層部への説明が刺さりやすくなる。
・実装すべき機能や、「やるべきでないこと」もはっきりする。
・ユーザーに何を体験させればいいのか、体験ストーリーも明確になる。
といった効果を期待することができ、これまで以上にビジネス開発に推進力を持たせることができるでしょう。
一方で、ブランド思想が組み込まれたプロダクトは生活者にとっても価値が分かりやすく、使えば使うほど企業との絆が強くなり、企業との絆が強いほど、サービスは成長していきます。
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ブランドから体験まで、一貫したプロダクトづくり。その観点では、ビジョン策定からユーザーの元に届くまで、全体を俯瞰(ふかん)してブランドデザインをしてきた電通だからこそ、今の時代にフィットしたビジネス開発支援が提供できる会社だと自負しています。
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※ この記事はウェブ電通報からの転載記事です