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経済コンテンツ・アプリ「PIVOT」誕生!UI/UXの工夫を探る経済コンテンツ・アプリ「PIVOT」のサービス、UI/UXデザイン

Date2022.07.11

2022年3月に誕生した、経済コンテンツ・アプリ「PIVOT」。「東洋経済オンライン」と「NewsPicks」の編集長を務めた佐々木紀彦氏が立ち上げたメディアとして注目されています。今回は、「PIVOT」のUI/UX開発を担当した電通のクリエーティブディレクター・松浦夏樹氏が佐々木氏と対談。「PIVOT」のUI/UXについて語り合いました。

繰り返し見たいコンテンツが集まるメディアを目指して

──最初に、「PIVOT(ピボット)」とはどのようなメディアなのか、概要を教えてください。

佐々木:「PIVOT」は、スタートアップ業界でよく使われる言葉で、“方向転換”を意味します。いまは、日本も世界も、地域、企業、個人も、これまで培ってきたことを大事にしつつ、方向転換していく時期を迎えています。まさに日本がPIVOTすべき時です。

「PIVOT」がメインターゲットと考えているのは、20代から40代前半の世代です。この世代に新しい時代の知恵や勇気を与えられるコンテンツを届けることで、実際に経済や人を動かしたいと考えています。

僕は以前、「NewsPicks」の編集長を務めていたので、「『NewsPicks』とどう違うの?」とよく聞かれます。「PIVOT」は、ニュースをどんどん発信するメディアというよりも、ビジネスパーソンの深くて面白い学びになるコンテンツ、いわば本のように長く読まれるコンテンツをたくさん世に出すことを目指しています。「PIVOT」のUI/UX開発では、松浦さんをはじめ、電通の皆さんの力をお借りしました。

松浦:いま、佐々木さんから “本”というキーワードがありましたが、最初の打ち合わせから、「すぐ消費されて終わるようなコンテンツが並ぶメディアにはしたくない」というお話がありました。

私は、「PIVOT」はニュースメディアというよりも、実学コンテンツのプラットフォームだと捉えています。そのUI/UXは、何回でも見たく(読みたく)なったり、コンテンツを所有している喜びを感じられることを意識して設計しています。アプリのホーム画面のレイアウトとデザインはその象徴です。

ホーム画面は、本の表紙のようなデザインのサムネイルがずらっと並んでいて、サムネイルをタップすると、第1話、第2話……と、コンテンツのタイトルが表示されます。あたかも書店で本を選ぶようなイメージを具現化しました。

佐々木:「PIVOT」を立ち上げたばかりの頃に、ユーザーから「こんなにたくさんのコンテンツを最初からよくそろえましたね」と言われました。初めて入ったお店で品ぞろえが貧弱だと嫌じゃないですか。ですから、頑張ってコンテンツをそろえたのですが、コンテンツが多く見えたのは、じつはUIデザインの力も大きい。画面設計は、松浦さんと試行錯誤しましたね。

松浦:大きさや配置をいろいろ変えて検証しました。サムネイルのデザインや、構造や遷移のパターンもたくさん種類を作り、かなり議論しましたね。

本文の印象的な部分をシェアできる「ハイライト」を開発

──「ハイライト」も、「PIVOT」の大きな特徴の一つですね。

松浦:ハイライトは、コンテンツの中から自分が気に入った文章を切り取って保存したり、他の人とシェアできる機能です。

 

佐々木:これは松浦さんが特にこだわった機能ですね。じつは、ハイライトを設計する前に、コメント機能を設けるかどうかが大きな問題になりました。プラットフォーマーとしては、コメント機能って集客にすごく役立ちます。にぎわいをつくるにはもってこいなんですが、「社会にとって本当にいいのかな?」と議論しましたね。

コンテンツを作る側からすると、的確なご指摘はありがたいのですが、中には誹謗中傷のようなキツいコメントもあって精神的に参ってしまうクリエイターも多くいます。特に匿名だとそのようなコメントが増える傾向にあります。「NewsPicks」でもコメントについては、喧々諤々の議論を繰り広げたことがあります。いいコメントや的確な指摘をどうすれば、うまく取り上げて外に広げていけるのか。一方で、誹謗中傷のようなコメントを減らすにはどうしたらいいのかと。

松浦:難しい問題ですね。だからといって最初に「こういうことをコメントしてください」とルールを決めてしまうと、かなりバイアスがかかってしまうし、コンテンツを気に入っても、こちらのルール通りにはうまく表現できない人もいます。

佐々木:「NewsPicks」は、途中からコメントを匿名ではなく実名に変えました。それによってコメント欄が荒れるような状況は改善できました。責任あるコメントが増えましたが、今度は多様性の低下という問題に突き当たりました。実名で発言できる人は、フリーの人や組織に属さない方が多いので、発言内容が偏ってくる。日本では、大企業に勤めている人はコメントを禁じられているなど、実名でなかなか発言できない方が多いじゃないですか。それで行き詰まってきたっていうのは正直ありましたね。とはいえ、フィードバックが全然ないのもよくない。よい塩梅を探ることは、デジタル時代における、コンテンツへのフィードバックの大きな課題ですね。PIVOTでは、アプリ内にコメント欄がない分、Twitter、YouTubeなどをフル活用して、ユーザーの方々とコミュニケーションしていきたいと思っています。

松浦:いろいろな意見を佐々木さんと交わした結果、コンテンツの中で自分がいちばん気に入った文章だけを、何のコメントもバイアスもなく切り抜けるようにするのがいいんじゃないかという結論に至りました。コンテンツに対するリスペクトをわかりやすく伝えると同時に、コンテンツの作り手も本文で勝負しようと思えるようなものにしたいという気持ちも「ハイライト」機能に込めています。

コメントはポジティブなものもネガティブなものも書けるけれど、ハイライトは、共感しない内容をわざわざ切り取る人はいませんからね。コンテンツのいいなと思う部分だけをシェアできるので、ポジティブだなと思います。ハイライトはこのようにビジョンから逆算して作られた機能の一つです。

佐々木:自分の経験を振り返っても、「引用で十分だな」と思いました。ユーザー自身が面白いと感じたところ、そこがコンテンツの一番価値のある部分ではないでしょうか。本を読むときでも、大事なところは線を引くじゃないですか。コメントに依存せず、コンテンツの中身がシェアされてどんどん伝わっていく、「知恵のシェア」を実現できればと考えています。

松浦:おっしゃるとおりですね。自分の経験でも、面白い記事を読んだけど、いざ探そうと思うと「あれどこにあったっけ?」というのがすごく多いです。ハイライトはそのような問題を解消してくれる。ハイライトページに行けば自分が切り取った文章が並んでいて、すぐに核心に到達できるし、他の人とも簡単にシェアできます。

新しいプラットフォームの提案が、人々の新しい行動を生む

──「PIVOT」には、他にどんな特徴がありますか?

佐々木:「PIVOT」は、テキストと画像に加えて、映像や音声もある “ハイブリッドなコンテンツ”であることも特徴です。今後は映像・音声コンテンツを特に増やしていくつもりです。

松浦:佐々木さんとの打ち合わせでは、「音声メディアがこれから注目されるんじゃないか」という点で意見が一致しましたよね。

佐々木:コロナ禍で在宅勤務が増えたこともあり、「ながら視聴」がすごく増えています。耳で消費できることの価値が非常に高まっている。ラジオ局の方の話では、ポッドキャストなどは、20~40代くらいの、まさに我々がターゲットとする人たちの中ですごく利用者が増えているらしいんですね。

アーリーアダプターな人たちの情報摂取、特に経済コンテンツの摂取の仕方が劇的に変わっているところがあるので、ニーズに早く応えないといけないと松浦さんと話しています。ニューマーケットを捉えるのは、ニューメディアとして大事なことですから。

松浦:「PIVOT」は、たとえば満員電車で通勤しているときは音声コンテンツを楽しむ。後で再度見返したいものはテキストのコンテンツを保存しておくといったように、状況や目的に応じて、いろいろな形式のコンテンツを行き来できることを意識して設計しています。

──「PIVOT」について、今後の展望を聞かせてください。

松浦:世の中のいろいろなデジタルメディアなどを見ていると、ニュースメディアはこうあるべきとか、動画ストリーミングサービスはこうあるべきとか、結構形ができてきていますよね。そんな状況の中で、「PIVOT」は、新しいコンテンツとの関わり方を提案できたと考えています。

佐々木:最初のステップとしては、松浦さんが私の思いをうまく体現してくださいました。今後はユーザーの求めているものにどう近づけていけるかですね。

松浦:そうですね。ただ使いやすいだけでなく、提案性のあるものを今後も出していきたいですね。「ハイライト」も開発途中では、やっぱり普通のコメントやシェア機能の方がいいのではという意見がありました。しかし、なんでもすでにあるものを採用するのではなく、よりよい未来が実現できそうと思うなら、新しいことにトライすることも必要だと思い、最後までこだわりました。

企業のブランディングでも、自社が実現したいビジョンをきちんと定義して、それを届けていくことが大事じゃないですか。プラットフォームの設計でもそれができると思っています。

──実際は、走りながらチューニングをしていくのだと思いますが、次のプランはありますか?

佐々木:PCでも見られるウェブ版の開発を急いでいます。いまリモートワークが増えて、スマホである程度長いコンテンツを読むような機会は減り、PCのウェブブラウザでも見られることの重要性が高まっていると感じています。

松浦:そうですね。ここ数年、UI/UXデザインはスマホファーストという流れがあります。でも、自分自身リモートワークをするようになって、「たしかに長い文章はPCで読むな」と思います。

佐々木:ウェブ版はアプリとは違う使われ方するのかなと思います。ハイライト機能であれば、自分が切り取った部分をすぐに引き出して、仕事の仲間とすぐシェアするとか。ウェブ版ならではのPIVOTの長所を考えながら開発していきたいですね。

──最後に、電通は広告やマーケティングの会社というイメージが強いですが、UI/UXの取り組みについて教えてください。

松浦:電通としての答えなのか、僕自身の答えなのかというのはありますが。僕はUXデザイナーでありクリエーティブ・ディレクターでもあるので、体験デザインを通して、世の中に新しい価値を提供していくことが自分の役割・仕事と捉えています。改善やリサーチだけではなく、ビジョンやアイデアから入るものづくりの実績を増やし、自分たちの提供価値を可視化していきたいと思います。

佐々木:プラットフォーマーやメディアは、そのUI/UX自体が一番の広告にもなります。そこをどう設計するかは極めて重要ですよね。単にデザインするのではなく、世界観を作ったりコンテンツについて考えたり、ジェネラリスト的な能力が求められますね。

松浦:僕は大学時代に建築を学んでいましたが、いまやっていることは、そのアプローチに近いと感じています。建築は美しさも使い勝手も求められますし、新しい提案もときには必要です。例えば細かくLDKに分かれていたものを、壁を取り払ったら、これまでと違う生活ができるというのも提案ですよね。同じように、新しいプラットフォームの提案が人々の新しい行動を生みます。

佐々木:いままでの広告ビジネスと建築との違いは、建築は作った後からが勝負という面があります。私たちのアプリ開発も同じですよね。松浦さんとタッグを組んで、「これからが勝負」という気がします。

松浦:常にユーザーと向き合って「PIVOT」を進化させていきたいですね。本日はありがとうございました!

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